医療あれこれ

再生医療はどこまで進化するか

 病気で機能が損なわれた人の臓器や組織を、これまでの薬物治療や外科的治療とは全く異なった方法により、障害を受ける前の状態に戻すことを目的としておこなわれるのが再生医療です。京都大学の山中伸弥先生によるiPS細胞はその先端にあることはいうまでもないでしょう。

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右の表は現在、日本において取り組まれている再生医療の対象疾患を列挙したものです。これを見ると、皮膚や骨格、眼疾患を初めとして、脳、心臓、肝臓など全身のあらゆる臓器疾患が対象となっています。動物実験などの基礎研究を済ませて、実際に人を対象とした治療がおこなわれているものが多くみられます。しかしいずれも研究段階にあり、治療に必要な経費が全て医療保険の適応となっているものはありません。ほかの医療のように医療保険が適応されるようになるためにはしばらく時間がかかるでしょう。医師を対象としたアンケート調査でも、iPS細胞の臨床応用に際して不満に思う点、解決してほしい点を尋ねたところ、iPA細胞の製造や治療にかかる医療費の問題をあげた回答が約半分にみられました。実際の傷病者に対してもこれが最も大きな問題となるところだと思われます。

 しかし、この問題より多くの回答が寄せられたのは、iPS治療による腫瘍化や未分化細胞の存在でした。これまでのような他の人から提供を受けた臓器を移植する治療の場合、免疫による拒絶反応で移植を受けた臓器が生着しない可能性があることが最も大きな問題でしたが、自身の細胞から作られたiPS細胞による治療ではこの問題が解決される方向で進化していることはいえると思います。その一方でiPS細胞を作る段階の操作における影響から、将来的な腫瘍化が解決すべき点として残ると想定されます。iPS治療が夢の技術であるとして多大な期待を持つことにも問題があると思われます。かつて遺伝子治療は最先端の治療であると期待されましたが、現在のところ全ての問題が解決されたとはいえない状態です。iPS治療も同じ道を歩むのではないかという危惧もあります。iPS治療により重大な副作用的問題が発生した時どうするのか、ということで治療を進めることに障害が発生すると進歩はありません。このようなリスクもあるけれど、それを判ったうえで新しいことに取り組んでいかないと進歩はないと思われます。医療者や研究者と、リスクを考えてそれを規制する当局が対話により進歩していく「リスク・コミュニケーション」が大切であると、神奈川県立保健福祉大学の八代嘉美教授は述べています。

引用文献:日経メディカル、20189p.3055