医療あれこれ

特発性正常圧水頭症

特発性正常圧水頭症

水頭症は、脳のなかにある脳室を流れる脳脊髄液の流出が先天奇形や腫瘍などで遮断され、脳脊髄液の圧力が高くなって拡大し脳を圧迫する病気です。これに対して正常圧水頭症とは、脳脊髄液の圧や性状は正常なのに、脳脊髄液が貯留し脳室が拡大してさまざまな脳症状が出現してくる病気です。原因として、くも膜下出血や頭部外傷、髄膜炎の合併症としておこることもありますが、これら明らかな原因がないのに発症するのが特発性正常圧水頭症で難病です。

症状として、すり足や小刻み歩行などの不安定な歩行障害、物忘れが進行して1日中ボーとしている認知症の症状、さらに尿の回数が多くなってトイレに間に合わない尿失禁(排尿障害)などがあります。これらの症状やCTスキャン、MRIなどの画像診断などで診断して、脳外科で脳室から脳脊髄液を抜き取る手術をする治療をおこないます。この手術は短絡(シャント)手術といいますが、脳室にチューブを挿入して腹腔までつなげるルートを作っておく脳室-腹腔シャント術(VPシャント)、そして腰の部分まで流れている髄液と腹腔をつなげる腰部くも膜下腔-腹腔シャント術(LPシャント)などがあります。最近は直接的に脳を処理するリスクがあるVPシャントよりも、LPシャントの方がよくおこなわれているそうです。

 アルツハイマー病やその他の認知症の多くは、症状を回復させるのが困難なことが多いのにたいして、正常圧水頭症は手術により症状の改善が期待できます。しかし現実には認知症クリニック受診者には3.5%の正常圧水頭症がいるといわれています。この疾患の正確な診断と適切な治療をすみやかにおこなうことが重要になってきます。かかりつけ医と認知症診療医、脳神経外科医との連携、さらに術後ケアの観点からリハビリテーション担当者、ケアスタッフといった多職種の連携を構築することが重要とされています。

引用文献:末廣 聖、数井裕光 老年精神医学雑誌、

2711号、1200~1205(2016)