医療あれこれ

血管と血液(9) 古代から知られた血友病

 血友病という病気は、遺伝的に血液凝固因子の一つが欠乏・欠損しているものです。凝固第Ⅷ因子の欠乏を血友病A、第Ⅸ因子欠乏を血友病Bといいます。凝固因子欠乏ですから、患者の血液が固まる時間が極端に延長しており、ケガをしたりすると出血が止まらなかったり、よく動かす手足の関節や筋肉の中に出血をおこす症状があります。そしてその遺伝形式は伴性劣性遺伝といって、簡単にいうと患者のほとんどが男子であるということなのです。今回の話題は、この血友病という病気の概念が古代から知られており、それに関する法律があったということです。

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 ユダヤ教には聖典バビロニア・タルムードという法律があります。これはユダヤの聖職者達が生活規範、慣習、しきたりなどを口伝えで伝承していた内容が5世紀頃に文書化された法典です。この中に男児が生まれると8日後に割礼(かつれい)をおこなうことが定められています。割礼とは、割礼士と呼ばれる役職の人物がその男児の陰茎の包皮を切り取って、出血した血液を吸い取る儀式です。もし割礼士が血液を吸い取らなかったら解雇されるとも定められています。もともとは男児の包茎を予防し健康な成長を願って始められたものなのでしょう。

 ところが中には陰茎の包皮を切り取った後、出血が止まらず死に至る男児もいることが判ってきました。そこでバビロニア・タルムードには、もし第1子の男児が割礼により出血して、第2子も同様の出血がみられたら、その児たちの母親は第3子の男児に対して割礼をおこなうことを許してはならないと定められています。この出血が男児であることと、同じ母親から生まれた児であるということで、何らかの遺伝的で男児にみられる出血性疾患があると認識されていたのです。そしてそのことが文書として記録されていることは興味深いものです。