医療あれこれ

血液と血管 (3)

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 前回(血液と血管2)では、血管壁が切れて出血がおこると、血小板がまず作用して血栓を作り血管壁の穴を作る、そしてその血小板血栓は不安定なものなので凝固因子が作用して安定なフィブリン血栓を作って止血する、ところまで説明しました。これで血管の修復過程は終了かというと残念ながらそうはいきません。フィブリンの血栓がどんどん形成されて血管を詰めてしまうかも知れないからです。そこでフィブリン血栓を適切な大きさまで溶かして血管修復を完了させるシステムが血管内には存在するのです。それがフィブリン溶解系と呼ばれるものです。フィブリンのことを日本語で繊維素といいます。そこでこの系は通常、繊維素溶解系、略して線溶系と呼ばれています。

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 実際にフィブリンという凝固因子の塊を溶解する物質はプラスミンというタンパク質です。このプラスミンは血管壁の一番内側にある内皮細胞において、プラスミノーゲンというプラスミンの前駆物質に対して組織プラスミノーゲン・アクチベーター、略してtPAという活性化酵素の作用によって生成されます。tPAは出血がおこった時、このように出動する役割を持っていますが、出血時だけではなく、誤って血管内にフィブリンが形成されかけた時、つまり血栓症が発生しかけたときこれを制御する役割があります。つまりtPAは血管が閉塞する病気、脳梗塞や心筋梗塞に対して防御作用を発揮する重要な役割を持っているのです。

 人の体内にはそのような作用が備わっているのに、脳梗塞や心筋梗塞がなぜ発生するのかというと、これらの病気は、もともと体内にあるtPAだけでは作用が不足した状態というわけです。そこで、脳梗塞や心筋梗塞が発病した直後であれば、血管内にtPAを製剤にしたものを投入してあげると、理論的にはできたばかりの血栓を溶かして血管の閉塞を再開通させることが可能になるのです。これがtPAによる血栓溶解療法です。