医療あれこれ

2014年6月アーカイブ

 人において血液中の尿酸値はプリン体の最終代謝産物で、尿酸自体が水に溶けにくく、血中濃度が高くなると尿酸は結晶を作り、それが関節に蓄積して痛風発作の原因となるということを、このページでも何度かご紹介してきました(201248日付医療あれこれ他)。それでは「尿酸というものは血液中の老廃物で、多量の尿酸は人の体にとって必要なものではない」から血液中の尿酸値は低ければ低いほどよいのでしょうか?

 実は尿酸には強力な抗酸化作用があるのです。抗酸化作用をもつ抗酸化物質は、人の体の中でおこる酸化的ストレスを抑制するものです。酸化的ストレスが蓄積すると、人は老化し、血管の障害がおこり、脳などの神経細胞が障害されるなど多くの好ましくない状態を作り出しますが、抗酸化物質はこれらを抑制する作用を持っています。ビタミンCは典型的な抗酸化物質として知られています。お肌を若々しく保つためにはビタミンCは必要不可欠であることはよく知られた事実ですが、尿酸がもつ抗酸化作用はビタミンCよりはるかに強力です。

 人の血中尿酸値は他の哺乳動物に比べて正常でも高い値であるとされています。一説によるとこれが人間は他の哺乳動物に比べて寿命が長いことにつながるそうです。またアルツハイマー病やパーキンソン病の人のうち異常に血中尿酸値が低値な場合があることも報告されています。つまり尿酸がもつ抗酸化作用が不足すると老化を早め、神経疾患の原因を作ってしまうというのです。これらのことを考慮すると、尿酸がもつ抗酸化作用は人体にとって必要なものです。ただし血中尿酸値が高すぎると痛風の原因となってしまいますので、血液中の尿酸値は多すぎず、少なすぎずということが理想的だと考えることができます。

 それではどうすれば適切な血中尿酸値を維持することができるのでしょうか?それは栄養のバランスがとれた食事をする、適度の運動をする、アルコールを飲みすぎない、など正しい生活習慣をすることです。低尿酸血症より高尿酸血症の人が圧倒的に多いのは事実ですから、もし尿酸値が高ければお薬でコントロールすることができます。普通に生活をしていて、健康診断など機会があるごとに尿酸値を調べておけば安心ということができます。

 物部氏との政争に勝利した蘇我氏は蘇我稲目、馬子、蝦夷(えみし)、入鹿の4代にわたって皇室を上回る勢いで、大和政権を掌握していました。645年、中大兄皇子(後の天智天皇)や中臣鎌足は、政権を天皇家に取り戻そうと、飛鳥板蓋宮(いたぶきのみや)で蘇我入鹿暗殺に及びます。この暗殺事件直後に即位した孝徳天皇は改新の詔を発布し新しい政治を形成していきました。この政変が大化の改新と呼ばれるものです。これを契機にその当時大陸に派遣されていた遣唐使によってもたらされた唐の制度にならい、701年(大宝元年)に大宝律令が編纂されます。これによりわが国は法治国家としての形を整えてゆくのです。

Fujiwara-Fuhito2.jpg 大宝律令の選定に携わったのは、大化の改新後、天智天皇から藤原姓を賜った藤原鎌足(中臣鎌足)の次男である藤原不比等(ふじわらのふひと)や忍壁皇子(おさかべのみこ)らで、この制定により、国政は天皇を中心として、太政官と神祇官の二官と中務省、式部省、治部省、民部省、大蔵省、刑部省、宮内省、兵部省の八省からなる中央官僚機構が骨格として形成され、私有地の国有化、戸籍、租税に関することなどまで事細かな規定がなされていたそうです。

 この大宝律令に含まれる制度のうち21番目に、日本で最初の医療制度である「医疾令」が定められました。医療に携わる医師を政府が養成し、諸国に配置して医療に従事させようというものです。医師を官吏とすることで、医療の国有化をめざしたものと考えることができます。具体的には1316歳の医師の子弟40名を医学生として選抜し、厳しい試験を課して中央政府や地方行政機関に配属していくものです。部門ごとの修学年限や定員は、内科および鍼灸が7年で12名、外科・小児科が5年で3名、耳鼻科・眼科・歯科にあたるものが4年、按摩や呪術にあたるものが3年などでした。9年間かけても修了できないものは退学処分とするなど大変厳しい学制だったようですが、卒業生は医官として従八位の官位や禄が付与されることが定められていたそうです。ただしこの制度は、あまりにも理想的で事細かなことから、どれだけ実効されたかは明らかではないと考えられています。

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 食物繊維を十分に摂取することは心筋梗塞など心臓血管疾患の発症を抑制することは以前よりよく知られています。一方で、心筋梗塞を発症してしまった人が、発症前にはあまり摂っていなかった食物繊維を、発症を契機として十分に摂るようにすると疾患の経過が改善されるのか否かについては十分なデータはありませんでした。このほど、ハーバード大学公衆衛生学の研究チームが、「心筋梗塞発症後、食物繊維摂取量を増加させることにより死亡リスクが低下する」という結果を発表しました。(BMJ,2014,348g,2659

 以前のように心筋梗塞は致死的な疾患というより発症早期の適切な治療により、病気を克服して社会復帰されることが多くなってきました。しかし心筋梗塞を経験した人の死亡リスクは、そういった病気の経験がない人に比べて、やはり高いことが判っていました。そこで今回の研究では、心筋梗塞発症後に、食事で肉、魚よりも食物繊維の摂取量を増やすという生活改善をするとこの死亡リスクはどうなるのか?という点について、約4000人の男女を対象として追跡調査し検討したものです。

 その結果、心筋梗塞後に食物繊維摂取量を増加させた群では、そうしなかった群に比べて全死亡リスクが低下することが判りました。食物繊維摂取量が1日あたり10 g 増加するごとに全死亡りすくが15%低下したとのことです。また食物繊維の種類別でみると、野菜、果物よりも穀物由来の食物繊維を増加させることと強い関連が認められたとのことです。日本人の主食である米の他パンや麺類をバランスよく摂ることがよいと思われます。

(引用:Medical Tribune201465日)


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 聖徳太子は574年、用明天皇の第二皇子として生まれました。推古天皇のもと遣隋使を派遣して大陸の文化を取り入れるとともに、冠位十二階や十七条憲法を定め中央集権国家体制を確立していったと伝えられています。蘇我氏と物部氏の争いで蘇我氏と協調する立場にあったことなどもあり、仏教を深く信仰し593年、四天王寺を建立したといわれます。これは太子が法隆寺を建立したとされる607年より以前のことです。

 伝説によると四天王寺には、敬田院(きょうでんいん)、施薬院(せやくいん)、療病院(りょうびょういん)、悲田院(ひでんいん)の四箇院を設置し、高齢者や病気をもつ人の救済にあたったとされています。敬田院は戒律の道場、施薬院は薬草を栽培して病気をもつ人に薬を施す施設、療病院は身寄りのない病気の人を療養させる施設、そして悲田院は困窮した人の飢えを救う施設であったそうです。施療は「あまねく人々を救えば、未来永劫においても疫病の苦しみにあうことがない」という仏典をよりどころにしておこなわれる仏教行事で、聖徳太子の四箇院はこの一つということです。しかし聖徳太子が四箇院を建立したという話はそれからかなり時代が下ってから著された「聖徳太子伝暦」などに出てくるもので、太子の四箇院建立が本当だったのか否かは定かではないようです。

 いずれにしろ、この国の政治において中央にいた聖徳太子の仏教崇拝は、医療や福祉の精神に大きな影響を与えたのは事実でしょう。しかし仏典による薬草などをもとにした薬物は、遠くインドなどでないと入手できないものなどがあり、医療の実際としては、精神・心理療法や生活改善指導などが中心となっていったとの事です。

(引用: 酒井シズ 「日本の医療史」、「病が語る日本史」)aizen2.jpg


 日本における主要死因別死亡率は頻度の高い順に、① 悪性新生物(ガンなど)、② 心疾患、③ 肺炎、 ④ 脳血管疾患(脳卒中)⑤ 老衰 となっています。米国でも上位はほぼ同じような傾向で、① ガン、 ② 心疾患、 ③ 不慮の事故、 ④ 慢性下気道疾患(肺炎など)、 ⑤ 脳卒中 の順とされていますが、この度、これら5つの主要死因のうち2~4割は予防が可能であるとの分析結果が報告されました(W. Yoonら;MMWR201452日号)。

 これは米国各州の2008年~2010年の80歳未満の死因を集計した5大死因で、米国全体で年間約90万人がこれらの疾患により死亡しています。日本の死因順と異なるのは、統計の対象が日本では全年齢分布における統計結果であるのに対して、米国の報告は年齢が80歳未満となっており高齢者の一部が分析対象から除外されていることが原因ではないかと思います。ご存知の通り日本でも、小児などでは不慮の事故が、また比較的若年者では自殺などといった死因が上位を占めていることから米国と日本で同じ年齢層を対象として集計するとほぼ同様の結果になるのではないかと想像されます。

 今回の報告では分析の結果、ガンのうち21%、心疾患の34%、不慮の事故の39%、慢性下気道疾患の39%、脳卒中の33%が予防可能であると算出されました。死亡原因の予防とは死亡に至る状態を阻止することですから、疾患の発生自体を抑制できるというものだけではなく、その疾患により死亡してしまうことが予防できるものと単純に考えることはできません。疾患が発生しても早期発見して治療をおこなえば死に至ることを抑制できるという部分が含まれているものと思われます。Yoon氏らも、「その原因疾患による死亡を予防することができても、別の原因によって死亡する可能性もあるため、単純に予防可能な死亡数とすることはできない」と付け加えているそうです。

引用: Medical Tribune 2014529日)