医療あれこれ

2014年4月アーカイブ

 医療の歴史(35)(36)で、古代日本における医療の始まりは、適切な医療を行うことができる者が首長となって国をおさめる資格を持つこと、また大国主命、少彦名命の二人は日本の医療神として祀られていることをご紹介しました。

 しかし首長が医療の責任者であると、流行性疾患が広がったとき、これに対する処置の失敗が首長の責任となる可能性もあります。そこで時代とともに首長のもつ権限から呪医的な職能を分離して、別の医療専門集団を作るようになってきました。こうして大和朝廷の中には、医療と祭祀を専門とする氏族が生まれてきます。医療と祭祀は必ず一体のものであったようです。病は神のたたりと信じられており、これをしずめることが必要であると同時に、病気になると心の安らぎを得るため神に祈ることが大切な手段で医療の基本であったと考えられます。
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 さて医療専門職であるからには、常に新しい医療の方策を追求していくことになりますが、その中で帰化渡来人が大陸、朝鮮半島から日本に入ってきます。半島における新羅(しらぎ)、高句麗(こうくり)、百済(くだら)の三国のうち古代日本と特に関係の深かった百済からの帰化人は、古代日本の医療に多大な影響を与えました。百済から派遣された「医博士」による医学教育は、古代日本の医療技術を底上げしてその後、朝廷内での医療官司を確立していくのでした。なお、4世紀から5世紀における百済と古代日本(倭と呼ばれていた)との関係は、中国の吉林省にある写真の好太王碑(こうたいおうひ)の碑文に貴重な史料として確認ができるそうです。

 このほど日本高血圧学会は5年ぶりに、高血圧の治療目標を改訂した「高血圧治療ガイドライン2014」を発刊しました。これまでは最大血圧(上の血圧)が140mmHg以上、最小血圧(下の血圧)が90mmHg以上を高血圧とし、薬剤などによる治療の目標は、13085未満にするというものでしたが、これでは130140の間にある人はどうしたらいいか説明しにくい部分もありました。そこで今回の改訂では、不明確な部分をさけるため、血圧を下げる目標は14090未満にすると改められました。

 75歳以上の後期高齢者では、血管が硬くなり、もともとの血圧が高くなっているだろうなどの配慮から、15090未満が目標。逆に、糖尿病や慢性腎臓病(CKD)の人は、高血圧が病態を悪化させるので、これらの病気がない人より厳密に、13080未満にするとされています。

 また、これまでも血圧の管理は、医療施設で血圧の測定をするだけでは不十分で、ふだんの血圧を把握することが大切ですから、家庭での血圧測定が重要であるとされていました。これについても、今回のガイドラインでは、可能なら朝夕2回血圧を測定すること、またそれぞれ2回ずつ測定して平均をとることが推奨されています。

 これら降圧目標の変更について、日本高血圧学会の島本和明先生は、「降圧目標を13085から14090に変更したのは、決して治療目標の緩和ではなく、あくまで高血圧治療開始基準と治療目標のギャップを整理したためだ」と説明しています。

 神話の中で、大国主命のパートナーとして全国をめぐって国土を開拓した神とされている少彦名命(すくなひこなのみこと)は、国造りの他、医薬、酒造り、温泉療法などを開発したことから、日本における医薬の祖とされています。

 少彦名命は、身体が小さく、その後の御伽草子に登場する「一寸法師」のルーツとされています。大国主命との出会いは、出雲の海のかなたから光り輝きながらやって来たと言われます。大国主命が出雲の祖神から「少彦名命と兄弟の契りを結び、国造りを進めよ」と言われ、コンビを組んで全国を巡り国造りをおこないました。この中で、土壌を改良し、肥料を用いて農業をする技術の指導をしたことや、病気を治す薬の一つとして酒造りの技術を普及させ、「常世より来た水」と考えられていた温泉を用いて病気の治療をおこない、病気の回復、健康増進の方法を拡めたと伝えられているのです。愛媛県の道後温泉の開発はその典型だそうです。sino.jpg

 全国に少彦名命を祭った神社がいくつかありますが、その中で特に有名なのが大阪の道修町にある少彦名神社です。(写真)道修町は大阪で「薬の町」として知られ、周辺に薬品会社などが並んでいます。地域では少彦名神社は「神農(しんのう)さん」と呼ばれ、信仰を集めています。ただし、神農氏は古代中国の皇帝で医薬の神とされており、少彦名命のことではありません。道修町の少彦名神社は、少彦名命と神農氏の二神をご祭神としていることからこのように呼ばれているのだそうです。

 肥満をしめすBMIBody Mass Index)という指標があるのはご存じのことと思います。体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で計算され、標準体重はBMI 22とされています。このBMIでみた肥満の人とやせた人をグループ分けしてガンで死亡するリスクを調べた大規模疫学研究があります。

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 グラフで明らかな様に、赤の棒グラフで示す女性ではBMIでみて極端な肥満で無い限りガン死亡リスクとの関係は無いようです。一方青の棒グラフで示す男性の場合、BMI 21以下のやせた人、およびBMI 30以上で肥満の人では統計的にガン死亡リスクが高くなることが示され「U」字型の傾向が見られます。

 この理由として肥満については以前にもこの項でご紹介しましたが(2013515日医療あれこれ参照)、肥満は糖尿病につながり、インスリン様成長因子が細胞の増殖を促し、ガン細胞増殖からガン発症につながっていくことが理解できます。

 一方、やせがガンリスクを高める原因は、低栄養が免疫機能を低下させ、体のガン細胞への抵抗性が低下しているなどの理由が推察されています。ただしガンが発症してしまうと体重が減ってくるので、これが統計結果に影響しているのではないかという疑問が生じますが、初期のガン症例を除外してデータ処理しても同様の結果が得られるということです。また喫煙はガン発症リスクを高めますが、喫煙者ではやせた人が多いということもありますので、非喫煙者だけを対象として解析してもほぼ同じ結果が得られるそうです。

 太りすぎ、やせすぎを抑止し、体重を適切にコントロールすることがガン予防につながるということでしょう。


文献: 津金昌一郎 Astellas Square、2014年4~5月号、P.14