医療あれこれ

2014年3月アーカイブ

 花粉症の季節です。スギ花粉はピークを越えていますが、これからヒノキ花粉の影響がでてきます。花粉症では、眼がかゆい、涙が出るなど眼の症状と、くしゃみが出る、鼻水がでるなど鼻の症状が出現しますが、鼻の症状は花粉が原因のアレルギー性鼻炎という診断名ということができます。

 最近、米国でアレルギー性鼻炎の人は心筋梗塞になりにくいという報告が、米国アレルギー・喘息・免疫学会で発表されました。南カリフォルニア地域のアレルギー性鼻炎患者109千人と、症状のない人を正常対象として比較検討したものです。

 その結果は、アレルギー性鼻炎のある人の群では、心筋梗塞発症のリスクが正常対象群に比べて統計学的に有意に低いことが判りました。また同時に脳梗塞などの脳血管障害発症リスクについても検討されましたが、これについてもアレルギー性鼻炎の人はリスクが低いことが明らかとなりました。一方、同じくアレルギー性疾患である喘息患者93千人も対象として検討されましたが、こちらはこれら血管疾患が逆に有意に増加するという結果でした。

 これらの事から「アレルギー性疾患で心筋梗塞の発症リスクが低下するのは、アレルギー体質が原因ではないと考えられ、さらなる検討が必要だ」と発表者は述べています。花粉症だから心筋梗塞にはなりにくいと単純に考えるわけにはいかないようです。

 

(引用: Medical Tribune 2014320日、P37

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 赤肉とは、牛肉、豚肉、あるいは羊肉のことです。欧米人を対象とした大規模疫学研究において、これらの肉を食べる量が多い人ほど糖尿病発症リスクが高くなることが報告されています。これに対して日本人における研究では、男性では欧米人対象の研究と同じような傾向はあるものの、女性では肉摂取量と糖尿病発症とはあまり関係がないことが判っています。

 肉摂取量と糖尿病発症リスクの関係を示す理由として、いくつかの要因が考えられています。まず第一に、肉に含まれる鉄分が関係するという要因があります。肉には多くの鉄分が含まれていますが、肉を多く食べると体の内部に鉄分が蓄積されてきて、脂質異常や高血圧、肥満になりやすいというのです。鉄は細胞内のさまざまな反応に重要で活性酸素というものが生成され、酸化ストレスが増加し体の組織にダメージを与えることが知られています。

 また肉に多く含まれる飽和脂肪酸は、膵臓のランゲルハンス島から分泌され糖代謝を制御するインスリンの作用を低下させるともいわれています。さらに飽和脂肪酸はインスリン分泌自体を抑制するという報告もあります。これらの結果、糖代謝異常が発生しやすく糖尿病発症リスクが増加するという説があります。一方、飽和脂肪酸が多いほど心臓や血管疾患の発症リスクは増加するものの、飽和脂肪酸と糖尿病の発症には関係がないという報告もあり一定の結論はでていません。

 さらにソーセージなどの加工肉は亜硝酸塩や硝酸塩などの保存物質が含まれており、これらが糖尿病発症リスクを増加させるということが動物実験により証明されています。その他、以前にこの項でも紹介したAGE2013113日の「医療あれこれ」参照)が関係することなども示唆されています。

 以上のように、肉摂取と糖尿病発症については、諸説がありますので特定のことは断言できません。いずれにしろ当然のことですが、肉ばかり食べるのではなく偏りのないバランスがとれた食事をすることが最も大切だということは間違いありません。

(文献:日本医事新報、20143月、No.469058ページ)


これまでこの「医療の歴史」では欧米を中心とした西洋医学の発展をみてきました。概略のみでしたが、一応、現代医学までたどりついたところで、今回から趣向を変えて日本における医療の歴史をたどって行きたいと思います。

 医療の歴史(1)でも述べたように、人間が生活しているところには常に病気やケガがつきもので、これを何とか治して傷病者を楽にしてあげたいと考えるのは世の東西を問わず考えられるところです。日本において、少なくとも何らかの記録に残る医療史の最古のものは、「古事記」「日本書紀」に残る神話の時代のことです。

 古代国家の首長は、宗教あるいは呪術的な能力を持って国を治めていましたが、その国で発生する疫病にどのように対応するのかが重要な役割の一つであったと考えられます。futta1858m.jpg例えば、出雲の国造りをした大国主命が登場する因幡の白兎の話があります。須佐之男命(スサノオノミコト)の末裔である大国主命の兄弟神たちは、因幡八上地方の豪族の娘、八上比売(ヤカミヒメ)に求婚するため因幡の国に向かっていました。気多の岬にやってきたとき、ワニをだまして海を渡ろうとした白兎がワニに気づかれ丸裸にされているところに遭遇します。兄弟神たちは兎に「海水を浴びておけ」と教えたのですが、皮膚はただれ、痛み苦しみ出しました。兄弟神の荷物を背負わされていたため遅れてやってきた大国主命は、真水で体を洗って、炎症を抑える効果があるというガマの花粉を塗って助けたというのです。その兎は「あなたと八上比売は結婚するでしょう」と言いましたが、その予言通り、大国主命は八上比売を妻にして出雲の国を治めることになったのでした。

  この神話にあるように、首長に求められる能力は、傷病に対してどのように対応するかというものだったようです。