医療あれこれ

2014年2月アーカイブ

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 米飯を食べてから野菜をたべる場合に比べ、先に野菜を食べる方が食後の血糖値上昇が抑制されることが知られています。これは野菜の食物繊維が炭水化物(糖分)の分解と吸収を遅らせることにより、食後の血糖値上昇を抑制することによるものです。膵臓から分泌され血糖値をコントロールするインスリンは、血糖値の急激な上昇があると多量に分泌されますが、食後の血糖値上昇が緩やかであれば、このインスリン分泌を節約できることになるのです。この効果は糖尿病の人も、糖尿病ではない健康な人も同様に認められることから、糖尿病の予防効果につながる食事療法と考えられます。さらに血糖コントロールだけでなく、体重の増加を抑制したり、血圧や中性脂肪に対しても改善効果があることからメタボリックシンドロームに関連した一連の病態予防になると思います。

 具体的には、食事はまず野菜、きのこ類、海藻などを5分ぐらいかけてゆっくり食べ、それに続いて肉、魚介類、豆類などを含むおかずを食べます。10分ほどたってから最後に穀類、じゃがいも、かぼちゃなどの炭水化物を食べるのが理想的と言われています。糖尿病の食事療法で栄養のバランスやカロリー制限などが重要ですが、このようにできれば食べる物の順番を考えながら食事することも重要です。厳密に順番を決めてその通り実行することはなかなか難しいですが、「まず野菜を」ということを考えておくことが大切と思われます。


 現在開催中のソチ・オリンピックでは日本選手の活躍もあり連日マスコミ報道を賑わせています。ところで、男性の元アスリートは晩年に糖尿病を発症するリスクの低いことがフィンランドの研究者から発表されています(Laine K. et al Diabetelogia online, 2013.11.21)。

 その研究方法は1920年~1965年にフィンランド人で、長距離走やクロスカントリースキー、フットボールやアイスホッケーなど持久力と体力を要するスポーツの代表選手として国際試合に1回以上参加した男性の元アスリート1518名(平均年齢72.7歳)と、健康だけれども積極的なスポーツをしていなかった年齢層が同じ対照群1010名(平均年齢71.63歳)についてアンケートと身体測定、血糖値などの検査などを実施し結果を比較検討しました。

 その結果、元アスリート群では対照群に比べて糖尿病の発症リスクが28%低いことが明らかになりました。特に同じ元アスリート群でも、持久力を要する長距離走やクロスカントリーの選手だった人の糖尿病発症率は61%も低かったそうです。

 発表者のLaine氏によると、元アスリートの人は高齢になっても身体活動を維持するライフスタイルを送る傾向もあることも影響しているとのことです。若い時における運動習慣の有無もさることながら、高年齢になっても可能な範囲の運動を続けることが糖尿病の予防に重要であると思われます。

引用: Medical Tribune, 2014/1.16

 成長ホルモンは、頭蓋骨の中で大脳の下にぶら下がっている下垂体というホルモン産生臓器の前葉から分泌されるホルモンです。その名のとおり骨や筋肉の成長・発達に重要で、子供のころから成長ホルモン分泌量が多い場合、高身長となり、逆に少ない場合、身長が低くなります。それ以外に脳の発達や記憶などにも関係するとされています。従って、小児期から思春期には体を成長させ脳を発達させるために適切な成長ホルモン分泌はぜひ必要なことですが、一方、歳をかさねてきても、脳や記憶に重要な作用を持つことから、できればその分泌を確保することがよいと考えられます。

 成長ホルモンの分泌は、睡眠中に多くみられることが判っています。睡眠後、まもなく突発的に成長ホルモン分泌がおこることが知られ、男性では一日の成長ホルモン分泌量のうち6割から7割が、女性では5割弱が睡眠中に分泌されます。しかし、年齢とともにその分泌量は低下し、男性では30歳代から減少が始まり50歳代にはほぼ消失する、また女性では生理が終わった閉経後に減少してくるとされています。

 抗加齢という意味から、できるだけ十分な良い睡眠をすることが成長ホルモン分泌を少しでも維持するとも考えられます。また成長ホルモンの分泌を促進する「成長ホルモン放出因子(ホルモン)」をお薬として投与することにより、睡眠・覚醒のリズムが改善し、その結果、生活の質が改善する可能性が考えられ、現在その研究が進められているところです。

 

引用: 鈴木圭輔、平田幸一;日本医事新報、No.46842014.2.1

再生医療とは傷害を受けた生体機能を、さまざまな組織に分化することのできる幹細胞を用いて復元させる医療の総称です。臓器移植とは異なり、臓器提供者を必要としません。また従来の医療では治療が困難な遺伝性疾患などにも対応できる可能性があることなど、革新的な医療といえます。現在わが国はもちろん、世界各国で競って研究・開発が続けられている分野です。

幹細胞として、当初1981年、英国ケンブリッジ大学や米国カリフォルニア大学から報告されたマウス由来の胚性幹細胞(embryonic stem cellES細胞)を用いて研究が進められました。しかし実際の臨床応用に可能性を広げるためにはヒト由来のES細胞が必要です。1998年、米国ウィスコンシン大学でヒトES細胞が開発されましたが、このES細胞は、不妊治療のため実施された体外受精で余った受精卵から作られたため、倫理的な問題がありました。

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2006年、京都大学の山中伸弥教授らは、人の皮膚などにある線維芽細胞に少数の遺伝子を導入し様々な組織の細胞に分化する能力をもつ人工多能性幹細胞 (induced pluripotent stem celliPS細胞)の作成に成功し、2007年世界で初めて論文に報告しました。iPS細胞はES細胞のように受精卵など胚細胞から作られるものではないため、倫理的問題は発生しません。皮膚という入手しやすい細胞から作られますので、患者自身の細胞から作ったiPS細胞により治療が進められるという大きな利点があります。これらの功績により2012年、山中教授はノーベル賞を受賞したのです。