医療あれこれ

2014年1月アーカイブ

 これまでこの「医療あれこれ」でも紹介してきたように、わが国の糖尿病症例数は増加の一途をたどっていました。しかしグラフで示したように、厚生労働省が201312月に発表した「2012年国民健康・栄養調査」によると、「糖尿病が強く疑われる人(有病者)」は950万人で増加していますが、「糖尿病の可能性が否定できない人(予備群)」は1,100万人で1997年以降初めて減少に転じたそうです。そこで「有病者と予備群を合わせた数」をみると、やはり減少傾向が認められます。

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 この原因として、日本全体での健康意識の向上や、2008年から始まった「特定健康調査・特定保健指導」など糖尿病対策の効果が表れだした結果であるとも考えられます。これまで予備群に含まれていた人が糖尿病になってしまったことで有病者の数は増加していますが、予備群が減少に転じたことにより、近い将来、この効果はさらに明らかになっていく可能性があります。

 その一方で、有病者のうち3割以上(男性の33.8%、女性の34.7%)は現在、糖尿病の治療を受けていないことも明らかになりました。糖尿病になってしまっても、十分な治療をおこない、脳梗塞や心筋梗塞、あるいは慢性腎臓病の発症を予防することが大切です。日本糖尿病学会理事長の門脇 孝先生によると、「2013年は糖尿病治療が本格的に進む年になるものと期待している」とのことです。

引用:Medical Tribune 2014.1.23 Vol.47, No.4

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 甲状腺ホルモンは体の代謝を司るホルモンです。妊娠・出産と甲状腺機能には密接な関係があり、甲状腺機能異常症は妊娠・出産の前後に変化することが多く、また妊婦さんのみならず胎児や新生児に色々な影響を及ぼすことが知られています。

 女性が妊娠すると絨毛性ゴナドトロピン(hCG)というホルモンが分泌されますが、このホルモンは妊娠を継続するために重要な役割を持っています。またhCGが高値になることが妊娠したことを示すマーカーにもなります。hCGはまた、甲状腺刺激ホルモン(TSH)と類似の作用をもつことが知られています。通常、TSHは脳下垂体から分泌され、首ののどぼとけのところにある甲状腺を刺激して甲状腺ホルモンを分泌させるのですが、(このことは2012122日付の医療あれこれで説明していますので参照して下さい)、妊娠により分泌されるゴナドトロピンも甲状腺ホルモンを分泌させる作用を持っているのです。甲状腺ホルモンは胎児の発育に大変重要な作用を示しますので、妊娠により分泌されるゴナドトロピンが胎児成長のために体の中に甲状腺を蓄えている可能性が考えられています。

 ところで、バセドウ病のように甲状腺機能亢進症の人の妊娠にはどのような影響があるのでしょうか。以前から甲状腺ホルモンが過剰の時には、不妊となりやすく、妊娠したとしても流産や早産がおこりやすいことがよく知られています。そこで、バセドウ病で治療中の人はより厳密に甲状腺ホルモンのコントロールをする必要があります。また逆に甲状腺ホルモンが少ない甲状腺機能低下症でも、上述のように甲状腺ホルモン不足により胎児に悪影響を及ぼすことも考えられます。

 しかし、いずれにしても適切な治療をすることによって、安全に妊娠・出産することができるようになり、不妊や流産のリスクが少なくなるといわれています。この際には、甲状腺機能調節のための治療薬選択などを慎重に行う必要がありますので、妊娠を希望される方、あるいは妊娠した可能性がある方はすぐにお知らせ下さい。


 歳をとると次第に聴力が落ちてきます。高齢者の難聴は、高音域の障害から始まるのですが、人の声は比較的低音域のため、初期には人の声が聞くことができて、難聴が起こりかけている事に気付かないことが多いのです。そのうち低音域の障害も加わってくるので人の声も聞き取りにくくなってきます。

 この高齢者難聴の原因は、内耳にある蝸牛(うずまき管)内の感覚細胞が次第に脱落してくることによるものです。一たん感覚細胞がなくなってしまうと、二度と自然に再生してくることはなく、現在の医学では治療することはできません。従って難聴になってしまった高齢者は補聴器を使用して人の声や音を聞くことが必要になってくるのです。

 最近、これまでの補聴器とは異なり、「人工内耳」と呼ばれる医療用装具が注目されています。ふつうの補聴器は耳に装着しておいて聞いている音を増幅させ鼓膜を振動させることによって聞き取るものですが、この人工内耳は鼓膜を使わないで直接、内耳の蝸牛を刺激して音を感じる装置です。このため高齢者の難聴だけではなく、生まれながら聴力障害のある子供にも用いることができます。

 人工内耳を装着するためには耳鼻科での手術が必要なうえ、高額医療となることから、日本ではあまり普及しておらず、手術件数は約6000件しかありませんが、海外では32万件の手術例があるそうです。子供の難聴はともかくとして、高齢者では「もう歳なんだから手術をしてまでも・・・」と手術を断る場合も多いそうです。このような治療法がもっと手軽に受けられるようになることが望まれます。

文献:加我君孝:日本医事新報(2014,1)、No.4680P32.

 身体活動性が高い人は高齢者になっても健康状態が維持されることは以前から知られていました。今回ロンドン大学の疫学・公衆衛生学から、それまであまり体を動かしていなかった人でも高齢に達してから身体活動を始めるのは健康加齢によいことがイギリスの学術雑誌に発表されました。(Hamer H: British Journal of Sports Medicineオンライン版)

 研究は60歳以上の人約11,000人を対象として8年間の追跡調査をしたものです。調査開始時と4年目での対象者自身の報告により定期的な身体活動なしの不活動群、週1回以上中等度の活動をしている群、週1回以上強度の身体活動をしている群の3郡で比較し、認知症になっていないことや慢性疾患がないことなどの健康度を比較したものです。

 その結果、調査開始時に不活動であった人に比べて身体活動のある人の方で有意に健康状態が維持されるという、当たり前のような結果とともに、調査開始時には不活動だったけれど、4年後には週一回以上中等度以上の活動をするようになった人でも、身体活動を全く始めなかった人に比べて統計学的に有意に健康状態が維持されるという結果が出ました。つまり、高齢者になってから運動を始めても健康状態の維持に有効であることを示す結果と考えられます。

 このことは年をとってから、今さら運動を始めても手遅れだろうと考えられがちですが、病気になって不健康状態になる前に少しでも運動を始めると健康状態維持に何らかの効果があるということで、何歳になっても遅くない、少しづつでも定期的な運動を始めることが重要だということができるでしょう。だからといって高齢者になってからマラソンを始めることなどできませんから、できるだけ散歩をするなど身体活動性を高めていくことがよいと思われます。