医療あれこれ

2013年11月アーカイブ

 1114日はインスリンを発見したバンティング(医療あれこれ:医療の歴史26「インスリンの発見」をご覧下さい)の誕生日で、糖尿病への注意啓発を目的として世界糖尿病デーに制定されています。国際糖尿病連合はこの日に各国の糖尿病人口を発表しました。それによると世界全体の糖尿病人口は38千万人で増加傾向にあり、米国の総人口を上回る多数の患者数です。このままですと2035年には59千万人に達すると予想されています。国別ランキングでみると(下の図)圧倒的に中国に多く、次いでインド、米国の順になります。日本の糖尿病人口は720万人ですが、昨年の第9位から第10位に下がりました。

 社会全体での糖尿病対策への取り組みがなされないと、患者数およびその予備群と呼ばれる人数は増加の一途をたどることが予想されます。世界糖尿病デーが制定された2006年、国連はエイズについで糖尿病は「脅威ある疾患」であると決議しています。糖尿病の多くは予防が可能です。正しい生活習慣を守ることと定期的なチェックが必要となるでしょう。

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 遺伝子研究においてDNAの構造解析が重要です。初めにDNAの構造解析を行ったのはイギリス・ロンドンのキングス・カレッジにおけるモーリス・ウィルキンス(19162004)です。彼が用いた手法はX線回析といって、結晶にX線を照射すると感光板に影が映し出されるというものです。結果としてDNAは円形で中央に2本の線が交叉するような形をしていました。

 1951年、ウィルキンスがその成果を学会で報告する講演を聞いた若いアメリカ人研究者のジェームス・ワトソン(1928~ )は、もともと遺伝子研究をしていたわけではなかったのですが、遺伝子研究に興味を持ちました。イギリスのキャンベンディッシュ研究所に移ったワトソンは、X線回析が専門のフランシス・クリック(19162004)に出会います。

 当初クリックは、イギリスでは先に他の人が始めた研究の途中結果を先取りして最終結論をだすことは紳士協定に反するとDNAの共同研究にあまり乗り気ではありませんでしたが、ワトソンの熱意に心を動かされ、二人は共同研究を始めます。ウィルキンスの成果を基に試行錯誤を重ねた結果、ワトソンとクリックの二人はついについにDNAの二重らせん構造を解明したのでした。図はワトソンとクリックが1953DNAの構造を世界で初めて学術雑誌ネイチャーに発表したものです。(Watson JD, Crick FH: Nature. 1953 Apr 25;171(4356):737-8.)このDNAモデルは医学上20世紀最大の発見といわれ、その後の遺伝子工学における発展の基礎を作ったのでした。1962年、ワトソン、クリック、そしてウィルキンスはその功績によりそろってノーベル賞を受賞しています。

 DNAの二重らせん構造発見からちょうど50年後の2003年、人間の遺伝子情報(ヒトゲノム)解析が完了しました。これにより今後さらに人の発生や文化など基本的な生命現象の解析、疾患の新しい治療法開発などがますます発展するものと期待されます。


老化物質としてのAGE

 AGEとは、糖化反応最終産物:Advanced Glycation End products の頭文字をとってそのように呼ばれている物質です。この糖化反応は、例えば食品が古くなると茶色に変色してくるなどのことで、食品中に糖化反応が起こっているためタンパク質が変色してくるものです。この反応の中間産物として有名なものが、糖尿病の指標となるヘモグロビンA1cで、糖尿病の人は赤血球に含まれるヘモグロビンに糖化反応が高度に起こるためヘモグロビンA1cが増加してくるのです。この糖化反応の最終産物がAGEに当たるもので、多くの種類の物質があり、それらの総称がAGEです。

 糖尿病以外でも、年齢を重ねると、このAGEが増加してきます。年齢を英語で言うとage(エイジ)ですから、AGEと老化はちょうど語呂があっているので興味深いと思います。それはさておき、血液中のAGEが増加すると、その影響で皮膚のシワやシミが増えたり、動脈硬化が進行したり、アルツハイマー病などの神経疾患が増加したりするなど、まさしく老化物質であることが証明されています。

 これまでAGEは体内のタンパク質が少しづつ糖化反応を起こして蓄積されてくると考えられていました。しかし最近ではAGEを多く含んだ食品を食べ続けたりすることが、体内にAGEを貯め込むことになることが判ってきました。どのような食品がAGEを多く含むのかというと、茶色に変色して古くなったものはもちろんですが、肉製品や脂肪を多く含む食材を急激に高温で揚げたり、焼いたりするとAGEが多く生成されることが知られています。同じ食材でも急に焼くのではなく、ゆっくりゆでたり蒸したりした方がAGEの生成は少ないと思われます。

 また早食いをして、食後の血糖値を急に上昇させるとAGEは生成されやすくなりますから、できるだけゆっくり食べるなどの食生活習慣にすることも重要です。野菜や繊維質のものから食べ始める、丼物の単品より多くの食材が含まれる定食系がよいなどとも言われています。また食後、軽い運動を習慣づけて高血糖の予防をすることも重要です。

 あまり神経質になる必要はないでしょうが、ゆったりしたバランスのよい食事と、たまには焼くより蒸すなど調理法を変えてみてはいかがでしょうか。