医療あれこれ

2013年7月アーカイブ

 猛暑日が続いています。「熱中症に十分気をつけて」ということはテレビ、新聞等で連日報道されご存知でない方はいらっしゃらないと思います。ところで熱中症になったのは何をしていた時か?というと屋外でスポーツをしていた時や、労働をしていた時に比べて日常生活をしていた時の方が多いというデータがあります。とくに屋内生活が主体の高齢者では、身体が熱に鈍感となり発汗などの体温調節機能が低下していることも想定され注意が必要です。家の中でもエアコンなどで適度に温度を調節し水分補給を十分に行うことが重要です。運動時に発症した熱中症に比べて日常生活中に発症した熱中症のほうが、救急車で搬送された時、重症になりやすいということも言われていますのでご注意下さい。

 一方、慢性疾患を持っている人の場合、糖尿病では一般的に尿の量が多くなりがちで、脱水状態となりやすく、また自律神経障害などがあると発汗機能が低下していることが考えられます。これらはいずれも熱中症発症の大きな危険因子となります。また高血圧の人は塩分のとり過ぎが血圧に悪いということで、塩分を控える食生活にされています。そうすると知らず知らずのうちにおこる発汗の増加で塩分がさらに失われて体内のミネラルバランスが崩れ、脱水症状から熱中症発症に至ることを考えておく必要があります。糖尿病や高血圧の方は、生活のさまざまな場面で特に熱中症発症に注意することが必要です。

 熱中症の症状として、めまい、失神、筋肉痛、大量の発汗などは軽症で、体を冷やす、水分を十分とらせるなどの応急処置で対応できます。しかし、頭痛、気分不良、吐き気、実際に吐く、などの症状は中等症の症状となり病院への搬送が必要になります。さらに意識障害やけいれん、39℃以上の高熱になると重症で即入院のうえ集中治療が必要な状態と考えて下さい。意識障害というと意識不明の昏睡状態を想像してしまいますが、軽度の意識障害では普段に比べて何かボーとしている状態などを含みますのでこのよな時も重症化の徴候を疑わなければなりません。日本神経救急学会では、考えがまとまらない「判断力の低下」といった状態も重症化の初期段階である可能性があると述べています。高血圧、糖尿病の人にこのような症状が出現したら要注意です。

 自分の健康に影響するかも知れないストレスを感じている人は心筋梗塞などの心臓疾患になりやすいというデータが英国から発表されました。

 英国の公務員約6000人を対象として、自分の健康状態や社会的経済的状況を調査し、その後、最長で18年間追跡調査が行われたものです。ストレス度の調査は、「あなたは日常感じているストレスがどの程度自分の健康に影響していると思いますか?」という質問に対して、「全く影響なし」「やや影響あり」「影響あり」「強い影響あり」「非常に強い影響あり」の5段階で回答してもらいました。その結果は「全く影響なし」が全体の39%、「やや影響あり、影響あり」が53%、「強くあるいは非常に強い影響あり」が8%の割合でした。

 ストレスの影響などをみた他のほとんどの論文が、ストレスと健康を何らかの調査法を用いてストレス度として定量したものをデータにしているのに対して、この論文ではストレスに関する本人の意識に焦点を当てて、ストレスに対する個人的な反応性を検討しているところに特徴があると思います。

 結果として、ストレスが自分の健康に「強いあるいは非常に強い影響あり」と回答した人は、「全く影響なし」と回答した人に比べて心筋梗塞の発症が2.12倍多かったそうです。

 ストレスが自分の健康に「強いあるいは非常に強い影響あり」と回答した人は、未婚の女性、非白人、喫煙率が高く、野菜の摂取が少なく、あまり運動をしない、糖尿病の人が多く、仕事上社会的な支援が少ない人でストレスを多く受けているという有意な特徴が認められました。これらはそれだけで心筋梗塞など心血管疾患のリスクが高まる状況を多く含んでいると想定されますが、それをストレスと感じると、さらに危険度が増加することになるようです。

 普通に現代の社会生活をしている人や、特に仕事をしている人は大なり小なりストレスを感じているものです。しかし健康に対するストレスだけ感じて、自分の生活習慣改善がおろそかになっている人は、心筋梗塞を発症する高い危険状態にあるということが言えるのではないでしょうか。

 

文献:Nabi H et al.  Eur Heart J (2013), 26, DOI:10.1093/iurheartj/eht316

 前回の医療の歴史でご紹介したように、1928年フレミングにより発見されたペニシリンは、当初傷口の化膿を抑える塗り薬として作られたため、傷口にはよく効きましたが、現在のように内服薬や注射薬として作られませんでした。そのため細菌を死滅させる優れた抗生物質の世界初の大発見は、医学会ではあまり注目を受けていなかったそうです。

 その後、フレミングによって著されたペニシリンに関する論文に注目したのが、イギリスのオックスフォード大学教授であったハワード・フローリー(18961968)です。あたかも第二次世界大戦の真っ最中にあって、ナチスドイツによるヨーロッパの武力制圧が進んでいた時で、フローリーはナチスから逃れてイギリスで研究生活を送っていたユダヤ系ドイツ人のエルンスト・チェーン(19061979)らと、ペニシリンの研究チームを作りました。そしてナチスドイツの空爆をかいくぐって続けられた研究の結果、ペニシリンの注射薬が開発され、1940年、最も権威ある科学雑誌に、ペニシリンは全身に強力な抗菌効果を持つことが発表されました。

 第二次世界大戦で多くの戦傷者を出していた欧米各国は、戦時の政策として、武器の開発とともに、ペニシリンの大量生産技術の開発に力を注ぐことになりました。その結果、それまで戦傷により亡くなっていた多くの人命を救うことになったのです。

 日本の降伏により第二次世界大戦が終結した1945年、ペニシリンの発見者フレミング、そしてそれを用いた治療法を確立したフローリー、チェーンの3人はそろってノーベル賞を受賞したのでした。