医療あれこれ

2013年6月アーカイブ

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 年齢を重ねるにつれて、皮膚のかゆみを訴える人が多くいらっしゃいます。この場合、若い人のかゆみと異なって、抗ヒスタミン剤などアレルギーを抑える塗り薬などはほとんど効きません。加齢に伴う皮膚の乾燥が主な原因とされているからです。

 それでは、高齢者における皮膚の乾燥を招来する要因は何でしょうか。高齢者は、皮膚の微小血液循環が低下して皮膚乾燥が起こりやすいことも考えられます。また性ホルモン分泌が低下して皮膚の保湿に重要な皮脂腺の働きが低下していることが想定され、そのため皮膚をおおう皮脂(あぶら分)が減少しています。また低栄養や脱水の傾向にある人や、運動量の少ない人で発汗量が低下し、さらに暖かい部屋にいる時間が長くなると、この傾向はさらに強くなります。そして皮膚の水分量が低下すると、知覚神経が表皮の中まで延びてきて、かゆみの感覚を増強する影響もあります。

 かゆみの対策として、塗り薬だけで治療を試みても効果が十分でないこともしばしばあります。生活習慣を見直して、冷暖房の使用をできるだけひかえ、熱い風呂に長時間入ったり、皮膚を刺激しやすい静電気が発生するような素材の衣服を極力さけることが必要です。

 一方、皮膚の乾燥が原因で、かゆみがおこる以外に、薬によるもの、肝臓疾患、糖尿病、ホルモンの病気などが隠れている場合もありますので、症状が続く時は一度これらの検査をしてみることも必要になります。

文献: 新谷洋一他 日本医事新報(20134652p64.


 逆流性食道炎は、胃食道逆流症(GERD)があり、胃液が食道に逆流して発生します。胃液は食べた物を殺菌するため強い酸性で、胃袋の内壁は酸性でも大丈夫な構造になっていますが、食道の内壁はそうではありません。従って胃液が逆流して食道に流れ込んでくると「胸やけ」や場合によっては胸痛と感じるような症状が出現するものです。

 糖尿病の人はこの逆流性食道炎が糖尿病ではない人に比べて2倍以上多く合併することが報告されています。そして血糖コントロールが良くないほどおこりやすく、また糖尿病が発症してから年数が長いほどおこる確立が高くなりますが、16年以上経過すると発生頻度は低くなるようです。(下の図参照)

これは次第に神経障害がおこり知覚が鈍感になってくるためと言われています。

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 逆流性食道炎の発症は、自律神経障害があったり、唾液の分泌量が減り胃液の中和ができにくくなることが関係しているとされていますが、いずれも糖尿病にみられる徴候で、糖尿病と逆流性食道炎の関係が理解できるものと思われます。

 いずれにしても、糖尿病ではしっかり血糖をコントロールしておくことが大切で、もし「胸やけ」などの症状があるときは要注意で、胃酸を減少させるなどの薬物治療が必要になってきます。

文献: Nishida T et al.  J. Gastroenterol Hepatol (2004) 19, 258.

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 これまでに何度かご紹介してきましたように、内臓脂肪の蓄積はメタボリックシンドロームにつながり、また糖尿病の方にとっては、運動療法は重要です。運動の効果としては、① 運動により血糖、脂肪などのエネルギー源が消費され、② 糖尿病の場合インスリンの効き方を改善する効果が知られています。

 今までは、少し息が切れる程度の運動(有酸素運動)は、最初の10数分は血糖の消費効果があり、さらに運動を続けると脂肪の燃焼が始まるとされていました。つまり、たとえ時間のない人でも、少なくとも15分以上、できれば30分間の運動が必要であると言うことでした。

 しかし、最近の報告によると、軽い運動では、運動開始当初から糖と脂肪の両方が消費されるとされています。従って、時間のない人は短時間でも運動をすると、ある程度は脂肪の消費にも有効であると考えられます。「運動する」という特別な時間がとれない方は、日常生活の中で、エレベーターを使わずに階段を使うなど、体を動かす習慣を取り入れればよいでしょう。歩数計をお持ちの方は、1日1万歩が目標ですが、歩数がそれより少ない場合でも、まず今までより11000歩でも増やすように努めて頂ければよいと言われています。

文献:佐藤祐造:日本医事新報2013年、4651p.68


サルコペニア

 75歳以上の後期高齢者において、全身の筋力低下による歩行障害がおこり生活機能に障害が発生するとして最近注目されているサルコペニアについてご紹介します。

 歳を重ねるとともに筋肉の量が若年者に比べて減少し、筋力低下が徐々に進行しますが、同じ年齢の人で比べて明らかに筋力低下が認められるものをサルコペニアと言います。新しい疾患概念で、確立された診断基準などはまだありませんが、概ね、普通の歩行速度が一秒間に1メートル未満であるとか、握力の低下(例えば男性で25kg以下、女性で20kg以下)。また筋肉量を測定した時、健常人の平均値を明らかに下回っているような場合が考えられます。これらを基準として65歳以上の人でサルコペニアの有病率を推計すると男性で約5%、女性では約12%がサルコペニアと考えられるそうです(国立長寿医療研究センター病院)。

 サルコペニア診断となる血液中の特殊なタンパク質の研究が進んでいますが、筋力を何とか維持することが発症を予防するのに重要であることは言うまでもなく、東大22世紀医療センター臨床運動器医学講座によると、片足立ちやスクワットがよいそうです。具体的には片足立ちは左右1分間ずつ1日3回、スクワット5~10回を1日3回行うことが推奨されています。